ひかりかがよう

20世紀の終わりから21世紀の初めの若者たちのことばです!

このスリッパは赤だ!

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★ 第3回はM・Sさんの作品です。

三年生の時に書いてもらった決意表明の文章です。きっと彼女は今も絵を描いているんでしょう。彼女の言うのもわかります。質よりも分量の芸術。先生の側もわかります。量よりも質の芸術。どちらも大事なことです。

たまたまM・Sさんは、中学の時の先生のやり方を支持していた。それこそがあるべき姿だと思っていた。高踏的な芸術よりも、たくさん描いて、いろんなところに芸術を爆発させるやり方、そういうのもありだと思います。

バランスなんだろうか。せめぎ合いなんだろうか。要はどれだけそれで突き進めるか、自分の決めたことをやり通せるかなのかな。つまらないと言われつつも突き抜けたらこっちの勝ちですもんね。やり切るしかないのかも……。

 

*   このスリッパは赤だ                                M・S
                                                       
 私が中学生の時、たくさんの出会いがあった。一番心に残っているのは、美術の先生である。

 私は絵を描いたり、何か物を作ることが好きで、趣味であり特技だった。はじめての美術の授業の日、私はとても楽しみにしていた。先生はひげをはやした背の低い男の先生。軽くあいさつをして授業は始まった。とりかかったものはデッサンだった。みんな初めてすることで、わからないことばかり。私もとりあえず描いてみようかというところだった。先生はデッサンを分かりやすく教えてくれた。先生が以前に描いたものを見せてくれたり、白黒だが物には色があるから、いかにその色を伝えることができるかやってみなさいと言った。

モチーフは毎日履いている学校の赤いスリッパだった。私は一生懸命描いた。できるだけ忠実に、ぱっと見て「このスリッパは赤だ」と伝わるようにと思いながら。

 先生の採点方法は、なんと「作業量」で付けるのだ。よくある「上手」「下手」ではないのだ。作業量が多ければ多いほど点数が上がる。分かりやすいし、頑張ったらその分点数になるから、美術が苦手な子も一生懸命取り組んでいた。

 高校生になり、選択芸術ではもちろん美術を選んだ。また頑張ろう、と決めた。しかし、選択者全員が美術系大学をめざしているわけではないのだが、高校では採点方法がよく分からなかった。

 そんなことを考えていた時、ふと思い出した。それは中学校の美術の先生だった。先生は誰にでも頑張れるチャンスをくれた。

 私はこれから、やりたいように描こうと思う。中学校の先生から教わったことを土台に美術をやりきろう。