ひかりかがよう

20世紀の終わりから21世紀の初めの若者たちのことばです!

28年めのレクイエム

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 今日、お休みをもらって、以前住んでいたところに行ってきました。

 

 六年間住んだ土地で、道路も良くなって2時間くらいで行けるようになりました。

 

 とはいうものの、クルマにそれだけ乗って出かけ、用事を済ませたら、帰ってきました。また2時間くらいかけて。往復4時間だったのかな。あちらこちら寄り道をするので、それ以上にかかりましたけど……。

 

 28年前、初めて担任をさせてもらったクラスに、芸能界に所属している子がいました。とはいっても、どれくらい出ていたのか、詳しいことはわかりませんでしたけど、チャンスがある度に都会に出て、レッスンやら、オーディションとか受けていたという話でした。

 

 そんな芸能界にあこがれる子が、たまたまクラスにいました。そうした世界をめざしているから、言いたいことははっきり言い、物事は白黒つけなきゃいけないし、相手のことも配慮して、みんなにやさしくする、というのを実践していたようです。

 

 電車の中で、困ったおばあちゃんがいたら、その人を助けることはできないのかと、まわりに声をかけ、みんなに指示を出せるしっかり者でした。

 

 駅付近の私の家までやって来て、「何とかして!」と、朝、玄関に彼女が現れたのは、ついこの間のようで実は28年以上も昔でした。

 

 そうしたリーダーシップにあふれる子なので、まわりとの軋轢(あつれき)があったり、トラブルも起きたり、本人としても思うようにいかないなということで(?)、時々は学校を休んだりすることもありましたっけ……。

 

 学校生活に少しくたびれた秋の、中間テストの直前に、彼女は学校を休んでしまっていました。私は、彼女のお家から連絡をもらい、「ああ、そうなのか。体調が悪いのか。」くらいしか思っていませんでした。ちゃんと話をしていたらねえ。どうだったのかなあ。話せなかったのかなあ。

 

 学校を休んだ日、午後から元気になったのか、夕方、自転車で外に出たようでした。国道は狭く、危ない時があります。そして、どうしたことか、彼女は横を通るクルマにぶつかり、道路に倒れ、対向車にひかれてしまった。

 

 私は、夜遅く、病院にいる生徒指導の先生から電話をもらい、病院に駆けつけ、彼女を探しました。でも、もう彼女は何も答えられない体になっていました。

 

 彼女の無念そうな顔、しんどかった思い、痛かった表情、ただそれだけしかなくて、もう何も言えないし、言葉もありませんでした。ただ茫然としただけでした。

 

 学校の人や保護者の方とか、話をしたという記憶はありません。何もかもが止まっていました。時間は動いているはずなのに、私の何かは止まってしまっていた。

 

 自宅に帰ったのはいつだったのか。とにかく、帰宅し、妻に病院で見聞きしたことを一通り話したのかどうか。洗い物か何かをしていた妻に、すがってやっと涙を流すことができて、少しだけ時間は動いたけれど、それからもう何日も、ずっと鎮魂の日々はつづきました。私の時間はもうズタズタになっていました。

 

 彼女が亡くなったのが、28年前の今日。それで私は、彼女が眠っているお寺付近でお祈りをしました。ここにも書いて、みなさんにも彼女の無念さを思ってもらえたらと思いました。そういう人がいたというのを誰かに知ってもらいたい。

 

 世の中ツルツルしすぎなんです。本当はもっとガサガサなのに、それを口に出せないでいる。

 

 世の中にはたくさんの無念な気持ちを抱えて亡くなった方はおられるでしょう。でも、たいていはその人の気持ちになりきれないし、なるべくそういうことから遠ざかっていたいのも人情でしょう。

 

 そうだと思うんですが、この日が来るたびに、彼女の無念さを思い出す変なヤツもいたりします。みんながお互いを思い合って生きているんです。

 

 私は、また来年もかみしめていたいと思います。いつまでかみしめられるかな。とにかく、記憶がある限りかみしめていきます。

 

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★ この世界からいなくなること、私は小さい時からずっとそれが怖くて、時々は泣きそうになったりしました。

 

 今は、時間の問題なので、それをどのように迎えるか、それを考えていますが、いくら考えても、どうにもならなくて、むやみやたらとお寺にお参りしたくなります。

 

 いくらお参りしても、何も解決策にはならないけど、とりあえず落ち着くことができる。そして、ほんの少しだけ落ち着いた時間が過ごせる。結局、それが大事なんじゃないだろうか。とか思ったりもします。