ひかりかがよう

20世紀の終わりから21世紀の初めの若者たちのことばです!

空を見上げて

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 いつかこの作品をアップしなきゃと思っていました。文が書かれてから13年が経過しています。作者である彼女は、今は看護師さんをしているんでしょうね。卒業して12年が経つのだから、もう立派な社会人です。

 

 この空の下で活躍しているんだろうな。それとも、どこかの町へ引っ越したんだろうか。なかなか会えないし、消息はわかりません。少し残念です。

 

 でも、いいです。彼女はきっと元気にやっている、たぶん、そうだし、絶対そうだと思います。また、いつか会えるといいですね。

 

*   空を見上げて                   T・U

 

 私は小学校三年に上がる前に、父の実家のこの町に引っ越して来ました。

 前に住んでいた場所は都会ではなかったけれど、この町ほど田舎でもありませんでした。幼かった私は何不自由なくとけ込み、そして川で遊んだり、山で遊んだりしていました。学校の帰り道で草を引っこ抜いたり、祖父母の畑の手伝いをしたり、この町の自然が大好きでした。

 特に地区で開かれていた星の観測は、秋の夜に外にシートをひいて寝ながら空を見上げるひととき。寒かったけれど、建物の邪魔もなく、空一面に輝く星を眺める時が大好きでした。

 

 けれどそれは小学校まででした。中学校に上がると、その自然がとても煩(わずら)わしく感じました。今まで通っていた小学校は徒歩十五分に対して、中学校は自転車で三十分。遠いし坂も多くて、部活の後とかはとても辛くて、「なんでこんな田舎なんだろう」と思うようになっていました。

 

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 そして時は過ぎて高校一年生。今まで過ごしてきたよりずっと穏やかで、心にゆとりもできました。そして、私はよく空を見上げるようになりました。やっぱり見上げる空は昔と同じで広く一面に見えて、自転車で四十分ほどの高校までも、慣れのせいか辛くもなくて、また夜に星の観測をしたいな、なんて思うようにもなりました。

 

 最近は頻繁(ひんぱん)に空を見上げます。見上げる瞬間は不思議と穏やかで、自分の存在がとても小さく感じます。そしてこの町はほとんど変化はなくて、変わっているのは自分だと気づかされます。表情を変える空は自分のようで、眺める時間は大切です。それに気づくことができたのは、この町の環境で過ごした時間で、煩わしく思ったことも、今の気持ちへの過程でした。

 

 私はこれからもこの町と共に生きるんだと思います。きっとこの空を見上げながら。
                             [2006年6月]

 

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